とりあえず、宿に着いた枝野は、食欲もなく、じっと考えていたのだった。自分はこれからどうしたらいいんだ。
身の不安を酒に紛らわせようと、居酒屋で痛飲した。すっかり酔って店を出た枝野の前に、再び石井が現れた。

ずうっと監視していたらしい。
「枝野さん、少し歩きましょう」
　石井に引きずられるように、枝野はふたたび、松並木を歩いた。酔い覚ましですよと勧められたお茶の中には睡眠薬が入っていた。やがて、岩見重太郎の碑の前に来た。
「ここは仇討ちで有名な岩見重太郎の現場ですよ。座りましょう」
　すっかり酔っぱらって砂浜から海のなかへ倒れ込んだ枝野だった。下半身が海に漬かって寝込んだ枝野をそのままにして、石井は天橋立を去ったのだった。
　もうすぐ満潮になる、潮が満ちるだろう。運が良ければ枝野は助かるだろうし、運が悪けりゃ溺死するだろう。運命は彼に任そう。
　二人でいるところを見られた様子はない。安心して石井は東京に戻ったのだった。
　でも、当初の目的、父親の事件の真相は分かった。
結果として二人の男を死に至らしめた。自分は天涯孤独の身だ。

この後どうしよう。悩む石井だった。