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　しばらくしてから、今度は姫路へ出かけた。枝野は姫路の商店街で、小さなおもちゃ屋さんを経営していた。そのかたわら、地域の相談役としてそれなりの生活を送っていた。
　姫路もいい街だ。何と行っても国宝・姫路城だ。天守閣から見る姫路の景色は素晴しい。明治天皇が行幸したときに作られたと言われる御幸通りの一角で枝野はつつましく暮らしていたのだった。

　そこへ麻生の息子から電話が入る。なんでここがわかるのか、不審に思う枝野だった。
「枝野さん、私は麻生の息子で、石井と言います。枝野さんのことは小池さんから、伺いました。どうでしょう。父の思い入れを実現するため、天橋立、知恩寺へ行きませんか。そこで父と《噂の情報》の供養をしませんか｣
　小池から聞いたのであれば、しょうがない。それに文殊菩薩には興味もあったので、行くことにした。
「わかった。俺は車で行く。明日、夕方、知恩寺の駐車場で会おう」
　姫路から天橋立は二時間半ほどの距離だ。家人に天橋立へ行くと言い残して枝野は出発した。昼過ぎに着いた。
　枝野は籠神社近くに宿を求めてから、府中から遊覧船で天橋立を見ながら、知恩寺へと行ったのだった。少し早めに行った。知恩寺の駐車場では石井健一が《週間マンデー》の雑誌を持って待っていた。
　二人は知恩寺に詣り、文殊菩薩、知恵の輪等を堪能して、廻船橋を渡り、天橋立の松林の中を府中へ向かって歩いた。
宿は籠神社近くだ。歩くのにちょうどいい。
　知恩寺も、天橋立もいい。さすが日本三景のひとつだ。
　もう、夕方だった。
　歩きながら石井は枝野に語りかけるのだった。
「枝野さん、私は小池さんからすべてを聞きました。河野さんとも亀岡文殊で会いました。ただ、小池さんは国東の文殊仙寺の境内で、転んで頭を打って、事故死しました。河野さんは元気です。私は皆さんに復讐しようと思ってるんじゃないんです。本当のことを知りたいんです。こういう事態になったのも父にも、少しは責任があるでしょうから」
　そうか、小池がすべてを告白したのか。枝野は絶望した。ああ、自業自得とはいえ、己の人生は終わったのだなと痛感したのだ。
　府中の籠神社の前で石井と別れた。別れ際、石井が言った。
「この先、枝野さんがどうするかは、枝野さんの自由です。しばらく待ちます。でも父の事件の情報が世間に知られないのなら、私は手段を選びません」
「そんなことできるか、馬鹿にするんじゃない」