ここから川中不動を越え、並石ダムを越え、走水峠を越えて、両子寺を越えて国東市成仏から文殊仙寺へと向かったのだ。着いたのはもう夕方だった。
文殊仙寺の駐車場の端っこで座り込んだ。
「麻生さん、いや、石井さんだったね。君はどの程度のことを知っているんだね。誰も知らないはずだが｣
「あなたは知らないでしょうが、貴方たちが別れたあと、河野さんからお手紙をいただいてましてね。河野さんは詳しいことは知らなかったが、あなたと枝野さんの陰謀については、薄々感じていたんですよ。でも、なぜ、母がこの手紙を警察に届けなかったのか、今となっては判りませんが。多分、父の件でこれ以上、心を乱されたくなかったのでしょう。いい加減、本当のことを教えてもらえませんか。私は本当のことが判れば、それでいいんです。いまさら、警察へ行こうとは思いません」
「ちょっとまて、俺もほとんど知らないんだ。すべては枝野がやったことなんだ｣

　二人の激しいやり取りが続く、父の死んだ経緯をあやふやに話す小池だった。
　父の死が彼らの陰謀だと察した石井は突き詰める。
「本当のことを言ってくれないと、私は警察へ行きます。父の死の情況は、あやふやでしたから、きっと再捜査してくれるでしょう。河野さんの便りで大体のことは分かっていますよ」
　突き詰められた小池はついに真実を述べ、枝野と河野の消息についても喋ったのだった。
しかし、真実を暴露してしまった小池は恐くなった。
　そして小池は、石井に襲い掛かった。この若造を殺せば、自分たちの生活は安定すると思ったのだ。
　しかし、もみ合ううちに突き飛ばされ、駐車場の隅っこの鋭い石で頭を打って、逆に死んでしまった。
　予想外の結果に動揺した石井だった。どうしようかと思案したが、もう、夕方になっていた。誰もいない。
父親は文殊に傾倒していた。そして安倍文殊で死んだのだ。この結末も父の望んだことかもしれない。文殊の呪いだ、そう」感じた石井は、宝篋印塔の横に死体をかくし、〚文殊の呪い〛と書いた札を置いてその場を去ったのだった。
　幸か不幸か、こんな田舎のこと、監視カメラも目撃者もいなかった。
　翌朝、文殊仙寺の住職が死体を発見して、警察に連絡した。しかし、こんな田舎のことで、目撃者もなく、警察の捜査も空しく、事件は迷宮入りとなってしまったのだ。

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 その後、しばらくして、石井は再び休みをとって、仙台に行った。以前、河野からの便りで大体は分かっていたが、東北大震災でどうなったのか、少し心配だった。情報をネットで調べると、河野はまだ本屋さんを営んでいた。
　仙台駅付近のビジネスに宿をとった石井は、河野に連絡をとったのだった。
　亀岡文殊へ一緒に行こうと約束した、石井は翌日は暇だった。
　少し散策しよう。
　そうだ、白石へ行ってみよう。伊達政宗の家臣、片倉小十郎の城だ。
　明日使う予定でレンタカーを借り、白石へと向かった。
　はるか先にお城が見える。町並みには片倉小十郎と大河ドラマの幟が並んでいる。足元には白石城、市の花「やまぶき」と市の木「ぶな」の木がある。
　専念寺。門前の碑には聖徳太子尊像と刻まれている。覗こうと思ったが、なんか行事があるみたい。
　さらに歩く。しばらく歩くと、白石城だ。