そして売れ行きが順調な《週間マンデー》のパーティーに、何度か入り込み、安倍社長とも親しくなったのだった。
　何度か安倍社長と会ううちに、やっと《週間マンデー》の実情を聞いたのだ。
「私も将来、安倍社長のように自立したいんです。出版業界の事情を知れば、私も将来の事業に何らかの役に立つと思うんです。前身の《噂の情報》を引き継いで、ここまで大きくなった《週間マンデー》です。《噂の情報》を育てた元々の経営者のことを知りたいのですが、教えてもらえませんか｣
「そうか、君も将来、独立したいのか。それには大手出版社より、うちみたいなちっぽけなところの方がいいんじゃない？　ま、知ってることは教えてあげよう」
　安倍社長は特に不審にも思わず、知ってることを話してくれた。ひょっとしたら、自分の後継者になれる男かもしれないと思ったのかもしれない。しかし、《週間マンデー》に残っていた人事資料からはたいしたことは分からない。

　やめてから年数がたっているので、詳しいことは分からなかったのだ。かれらは、それぞれの出身地へ帰って仕事をしているらしいということだけだった。

「さっぱり、分らないぜ。ン、そうだ、思い出した。小池ってのがアマチュアカメラマンをやっていて、一度売り込みに来たことがあったな。ああ、これだ。名刺があるよ」 

　　　　　　＊ 

　ただ一人、小池氏は山口県・長門市で不動産業に就き、アマチュア写真家として結構、名が売れていることがわかった。
　枝野氏は兵庫県姫路市へ、河野氏は仙台市へ引っ込んでいるらしいとのことだった。河野氏のほうは古い手紙にあったとおりだった。
　石井健一はさっそく調査に乗り出した。
　長門市在住の不動産業でアマチュア写真家ということで、ネットで調査すると、なるほど、一人該当した。年恰好等からすれば間違いないだろう。

　石井は早速、休暇をとって長門市へ行った。ここはけっこう不便なところだ。新幹線で広島まで四時間だ。
　広島でこだまに乗り換えて、一時間。
ここからさらにＪＲ美祢線に乗り換えて一時間かかるのだ。合計で６時間半だ。
　しかし、ここは金子みすゞの生まれたところだ。鯨の博物館もある。いいところだ。
　近くのホテルに宿泊して、さっそく仙崎あたりを散策した。仙崎駅には金子みすゞの大きな看板があるんだ。　金子みすゞは日本童謡の黎明
期、大正末期に彗星のごとく現れた一人の童謡詩人。彼女が住んだ仙崎、町並みを歩いていると、どの店にも、街角にも彼女の詩が書いてある。でも、それだけだ。土産物屋があるわけじゃなし、じつに静かな町だ。

　ここから萩も近いのだ。萩には松陰神社なんかもいいね。少しばかり、萩市内も観光した。幕末の志士たちの遺構などがある。お濠に浮かぶ萩城址もいい。
日本海の景色もいいよ。