第五章　石井健一、真実を求めて 

　麻生一郎は北区、巣鴨に住んでいた。そう、朝見充彦の家の近くなのだった。
　山手線の大塚駅から少し歩くと、巣鴨警察署がある。そこからちょっと先にこじんまりした子安天満宮がある。
その近くに住んでいたのだ。そこからしばらく歩くと山手線巣鴨駅があり、近くに江戸六地蔵がある。東京にも六地蔵があるのだ。ここは六地蔵の三番目、中山道の入口だ。とげぬき地蔵も近くなのだった。
　朝見の母も時々。ここへ来るのだ。
　とげぬき地蔵の近くが染井霊園、有名人等のお墓がある広い霊園だ。ここを抜けると、西ヶ原みんなの公園。そのちょっと右手に朝見家の菩提寺、昌林寺がある。そばが古河庭園だ。朝見充彦の自宅も近い、もうちょっと歩けば、上中里の駅に行けるのだ。
　父が不慮の死を遂げ、母と二人、少しだけ分けてもらった会社の資金と母の仕事で細々と暮らしていた。家も売って、駒込駅の近くに引っ越した。世間の目から逃れるため、母の旧姓の石井に名を変えた。
　苦学の末、高校を卒業したとき、母から父親の死の情報を聞いたのだった
　河野氏からの手紙も見た。
　父は《噂の情報》という情報誌を経営していて、補佐する三人との軋轢の結果、奈良の安倍文殊のところで殺害されたこと、迷宮入りになって真相は分からないこと、河野さんという人だけ優しかったこと、等々を。

　河野からの手紙には簡単にこうあった。
『麻生さんは、枝野氏、小池氏と仲違いをしていました。《噂の情報》誌で暴露された山田氏と何度か会っていました。わたしはなんか変だなと思っていました。でも、警察の捜査には何も話していません。わたしは、故郷の仙台に引退して、本屋さんになります。麻生さんのご冥福を祈ります』

　その後、母は病に倒れ、残された寿命はあまりなかった。

　石井健一は母の看病をしながら、やっと大学を卒業した。そして、母が亡くなり、健一は真相究明の念を一層強くしたのだった。
　なんとかして、父の事件の真相を知りたい。

　しかし、どうやって当時の三人の現在の住所を突き止めようか。思案した結果が出版社への就職だった。同じような業界にいれば、《週間マンデー》の前身である《噂の情報》の経営陣の情報も手に入るだろう。そう思った石井だった。
　首尾よく、Ｋ出版に就職した石井は、《週間マンデー》との接触を画策するのであった。
　血は争えないのか、石井はＫ出版でも徐々に、その才覚を認められていった。