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　以上が綾香からのメールの中身であった。

　読んだ朝見の頭の中に、大分・国東の文殊仙寺の事件が鮮明によみがえったのだった。
　これはとにかく調査に乗り出さねばならない。岩見重太郎の碑に〚文殊の呪い〛の札が貼ってあったこと、国東の文殊仙寺でも〚文殊の呪い〛の札があったことを思い出した。
　両方とも〚文殊の呪い〛なのだ。不思議だ。
　きっと、何かの関連がある。

　早速返事をしたのだった。
「やあ、神田さん、何か起こってるようですね。こちらで少し調べてから、きっと宮津へ行きます。その時お会いしましょう。でも、その前に宮津署の鈴木さんに、連絡願えませんか。〚文殊の呪い〛の札があった事件は他にもあるんですよ。大分県・国東の文殊仙寺でも事件でも、その札があったんですよ。大分県・国東警察署の財前警部補と連絡とった方がいいんじゃないかと。なんでしたら私の方から連絡してもいいですが」 

　きっと、何か関連がある、そう決心した朝見だった。でも、まず、国東のルポをまとめなければならない。その日徹夜してルポをまとめた朝見は、午後、ルポを提出しに「日本紀行」の黒川編集長を訪れた。
　ちらっと読んだ黒川は「いいね、朝見ちゃん、六郷満山なんて大したことないって思ってたけど、素晴らしいじゃないの。そのうち、続編をいこうじゃないか」
　機嫌のいい黒川編集長だった。
「編集長、国東の文殊仙寺の続きで、残りの奈良の安倍文殊、山形の亀岡文殊、京都の宮津の知恩寺を取材したいんですけど、どうでしょう。きっと面白いルポになりますよ。そこときはよろしく」
「いいよ、いいルポを頼むよ』
　これでルポの名目で調査費用の心配がなくなり、朝見はほっとしたのだった。 

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 綾香から連絡を貰った鈴木部長刑事はびっくりした。朝見と言えば、前の事件で知合ったルポライターだ。
　宮津署の鈴木部長刑事から朝見に電話が入る。
「朝見さん、宮津の鈴木です。以前の事件ではお世話になりました。今度の事件でも『文殊の呪い』なんて札があって、ややこしいんです。神田さんから聞きました。なんでも、大分県でも同じような札があったみたいですね。先方の警察に、連絡してもらえませんか」
　そして、国東署との連絡を朝見に頼んできたのだった。

　朝見はさっそく、国東警察署の財前警部補に連絡した。
「もしもし、財前さん、お久しぶり。朝見です。文殊仙寺の事件はその後、どうなってます。実は、京都・宮津の文殊さんである知恩寺の近くで溺死事件がありまして、その近くで、「文殊の祟り」の札が見つかったんですよ。
　きっと、何らかの関係がありますよ。よければ、宮津署から電話させますが」
「え、そうなんですか？　こっちの事件の進展はないんですよ。さっそく、上司と相談して、連絡させてもらいます｣
　かくして、大分県警と京都府警は、お互いに捜査員を派遣して捜査にあたることになったのだった。
　しかし、捜査の進捗は思わしくなかった。
　大分の事件では、死んだ場所は駐車場の端っこ、そこの尖った石に血がついていた。　
　それが凶器だ。そこから発見場所まで明らかに第三者の介在がある。
　宮津での事件は、どうみても一人でうろついて泥酔した事故らしい。
　共通しているのは『文殊の呪い』の札だけだ。果たして〚文殊の呪い〛とは何なのか？
　他の二ヵ所の文殊では、この十年ほど、事件すら起こっていない。
　国東の事件も、宮津の事件も、事件の目撃者すらいない。死因も全然別だ。
　事件は、そのまま迷宮入りしてしまった。