死因は頭部打撲だった。駐車場の隅っこの縁石に血がついていた。どうやら倒れた時に後頭部を強く打って、これが直接の死因らしい。そのままだったら、事故死かとも思うのだったが、わざわざ、死体を運んでいる。おまけに〚文殊の呪い〛という札だ。不可思議な事件だ。

　警察としては、物取りか怨恨か決めかねているようだった。文殊仙寺までの足取りも判明しない。
　こんな田舎じゃ監視カメラもないし、公共交通機関もほとんどない。車で来るしかないのだが、その足取りはさっぱりわからない。
　誰かに連れてこられた可能性が高いと思われるのだった。

　事情を訊いた朝見は、
「これは、怨恨の線が強いですね。直接関係ないかもしれないが『文殊の呪い』の札が気になりますね。三大文殊とか四大文殊とか言われているところに何か異変がないか、調べてみればいかがですか？」
　そう言って、朝見は国東を離れたのであった。 

　　　　　　　　　　　　　＊

 　東京へ戻って、国東の六郷満山の資料を整理し、ルポにまとめる作業にいそしんでいた朝見だった。国東の散策は印象的だった。
　静かな山間の道を車で走り回って、いろんな所を歩き回った。
　久しぶりに充実した散策だった。実に楽しかった。
　頭の中が国東半島の光景で一杯だった時、電話が鳴った。

　財前警部補からだった。
「その後の情況をお話しします。よろしく｣
　財前警部補からの連絡では、被害者は、一度、三大文殊を尋ねてみたいと言っていたそうだ。
　写真の対象としてもいい所だしね。どうやら、電車で向かったらしい。宇佐駅の監視カメラに写っていたようだ。多分、ここから誰かと待ち合わせていた車で文殊仙寺へ向かったようだ。でも、これ以上は判らなかった。
　他の文殊でも特に事件は発生していないようだ。
　そこまで聞いた朝見の頭の中から、この事件のことはきれいに消えてしまった。